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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)11245号 判決

一 原告が本件実用新案権を有すること及び本件考案の登録出願の願書に添附した明細書(補正後のもの)の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

そして、右争いのない実用新案登録請求の範囲の記載と、いずれも成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)及び甲第三号証(本件実用新案公報の訂正公報)によれば、本件考案は、ハンドル着脱式の扉施錠装置に関するものであつて、原告主張のようなAないしFの各構成要件からなるものであることが認められる。

二 被告が被告製品(ハイロツクハンドルと称する扉施錠装置)を製造、販売していることは当事者間に争いがない。

被告製品の構造については、原告は別紙目録記載のとおりであると主張し、被告は、同目録添付の図面(一)第1図ないし第10図のとおりであることは認めるが、被告製品の構造の説明としては別紙図面(二)及び同説明書によるのが相当であると主張している。そこで、図面(一)及び同説明書の記載と図面(二)及び同説明書の記載とを対比すれば、図面(一)と図面(二)の各第1図ないし第10図は図に付した番号の数に違いがあるだけで同一の図面であり、これらの説明書の記載も、表現において若干の相違が見られるものの、少くとも図面(一)の説明書記載の限度においては、実質上当事者間に争いがないことが認められるから、結局被告製品が原告主張の別紙目録記載の構造を有することは当事者間に争いがないというべきである。

被告製品であることにつき当事者間に争いのない検甲第一号証及び本体の一部を開除した被告製品であることにつき当事者間に争いのない検乙第一号証によれば、被告製品の作動ピン13の長さは、本体鍔部7に穿設された貫孔10の長さより長いものであることが認められる。この事実と前記当事者間に争いのない別紙目録記載の被告製品の構造によれば、被告製品は、請求の原因5(一)のaないしe、gないしkの各構成を有すること、及び、原告主張のfに該当する構成は、(貫孔10には、該貫孔の長さより長く、かつ、互いに長さの異なつた作動ピン13が挿入されている」というべきことが明らかである。

三 そこで、被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

被告製品の作動ピン13の長さは、前認定のとおり、本体鍔部7に穿設された貫孔10の長さより長いものであるところ、本件考案の構成要件Fにおいては、作動ピンは貫孔と等長を有するものであることとされている。したがつて、被告製品は、右の点において本件考案の構成要件Fを充足するものではない。

原告は、この点について、本件考案において作動ピンと貫孔とが等長であることとの要件は、単に、ハンドル挿入部に挿入されるハンドル屈曲部によつて作動ピンを介してロツクピンを凹窪内に隠没させたときにのみ本体の回動が許されるようになつていることに対応して、作動ピンと貫孔とが、そのような位置関係を醸成することができるような構成とすることを意味しているにすぎず、規制された長さ自体については特段の意味を持たない旨主張している。

しかし、本件明細書の実用新案登録請求の範囲には、「前記貫孔16、16には該貫孔と等長を有する作動ピン19、19を挿入してなり」との記載があり、かつ、前顕甲第二号証及び甲第三号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の欄にも貫孔より作動ピンの長さが長いものをも許容することをうかがわせる記載は存しないことが認められるから、本件考案においては、貫孔の長さと作動ピンの長さが等しいものであることを考案の要件としたものと解するほかはない。

更に、前述のとおり、被告製品の作動ピンは、貫孔より長さが長いだけでなく、互いに異なる長さを有しており、しかも、前記被告製品の構成jに示されているように、ハンドルの上端部に形成された板状鍵片の背面には、貫孔と作動ピンの長さの差に等しい深さの摺鉢状の凹部が作動ピンに対応して設けてあるので、右鍵片を鍵片挿入口に挿入したときには、作動ピンの前端部が前記凹部に係合することによつて、ロツクピンの当接面が座金の凹陥部と本体の鍔部の接触面に自動的にくることにより、座金に対する本体の錠止が解かれ、開錠することができるものと認められ、このことによつて、被告製品においては、凹部を有しない単なる板状の鍵片やドライバー等により開錠することを不可能ないし著しく困難にすることができ、また、貫孔と作動ピンの長さの差及び鍵片の凹部の深さを種々設定すれば多数の鍵違いを作ることも可能となる作用効果を有することが認められる。これらの作用効果は、本件考案における作動ピンと貫孔の長さを等しくする構成によつては達成することができないものであり、かつ、扉施錠装置においては重要な作用効果であると評することができる。

右のように、作動ピンの長さを貫孔の長さより長くするとの構造を有する被告製品は、本件考案とは構成を異にし、かつ、それによつて作用効果においても顕著な差異を生ずるものであるから、本件考案の技術的範囲に属さないものというべきである。

四 以上のとおりであるから、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも失当としてこれを棄却する。

〔編註〕本件における実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

扉2側に固定される座金4と、この座金に挿通され該座金4に対して開錠位置から閉錠位置までの所定角度に回転が規制される本体6とからなる施錠装置において、前記本体6の突出端部に形成された前板14と、これとハンドル屈曲部21の厚みより僅かに広い間隔を置き角軸部13によつて連設された環状の鍔部12とで、ハンドル挿入部15を形成し、前記鍔部12は前記座金4の外端面に形成された凹陥部10に回動可能に埋入され、該凹陥部内底面には凹窪11、11を形成するとともに前記鍔部12には貫孔16、16を穿設して互に合致自在に形成し、前記凹窪内には該凹窪に隠没し得る長さのロツクピン18、18を突出習性を付与して圧縮スプリング17、17とともに嵌入し、前記貫孔16、16には該貫孔と等長を有する作動ピン19、19を挿入してなり、前記ハンドル挿入部15に挿入されるハンドル20の屈曲部21によつて作動ピンを介してロツクピンを凹窪内に隠没させたときにのみ本体6の回動が許されるようにしたことを特徴とする扉施錠装置。

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